NPO法人農都会議バイオマスWG/農都交流・地域支援Gは、2024年6月25日(火)夕、「脱炭素で創る新たな地域価値 ~幸せな地域社会づくりは脱炭素先行地域、地方公共団体実行計画でどうなる?」勉強会をオンラインで開催しました。
→イベント案内(開催趣旨・プログラム)
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今回は、“脱炭素”で創る新たな地域価値について、島根県邑南町(おおなんちょう)の事例を元に考えようと、約40名のオンライン参加者(申込み含む)が集まり、講演とディスカッションを行いました。
開会にあたり、農都会議代表理事の杉浦英世がご挨拶しました。
第1部は最初に、島根県立大学准教授 RISTEX研究プロジェクト代表の豊田知世氏より、「中山間地域における再生可能エネルギー導入によるシナジー効果とトレードオフ」のテーマで講演がありました。
豊田氏は、1,000人規模の村での年間エネルギー支払い金額、全国注目の地域づくりの仕組み 「ちくせんの地区別戦略事業」、人の動き・物の動き現状分析などについてお話しされました。
豊田氏の講演要旨を記します。
・再エネにおける太陽光応用については後段の藤田氏の講演に委ね、主に木質バイオマス応用に着目した内容を取り上げた。
・脱炭素に向けた研究プロジェクトでも明らかなように、地域のエネルギー支出の大部分が外部に流出している現状を改善するために、地域主体の脱炭素を進めることが重要である。例えば1000人規模の集落の単位で2.3億円位がエネルギー費用として地域外に支払われており、地域の中に残るお金は1%程度しか残っていない。
・再エネを推進するFIT制度で、木質バイオマスの導入など地元資源を活用したエネルギー生産が進み、環境への貢献だけでなく、関連産業の振興やCO2排出量の削減が期待されている。シナジー効果(良い相乗効果)として林業における木材の効果的な利用が、森林の健全化と脱炭素への貢献につながる。
・しかし、大規模な木質バイオマス施設が増加し、持続可能性と地域経済への影響が懸念されるようになっている状況があり、シナジー効果よりトレードオフの問題が大きなっているところも出始めてきている。
・大規模施設と小規模施設の違いによるシナジー効果やトレードオフの島根県内の具体例を示す。
・邑南町の事例を通じて、公民館区の連携強化(地区別戦略「ちくせん」)で地域住民の主体的なまちづくり活動が進められている。地域住民の意識と行動が重要である。
・交流推進や地域戦略の推進が、地域の持続可能な発展にどう寄与しているか? 道の駅を拠点にした地域網構築の事例分析を通じて、エネルギー利用や交通網の改善が地域経済と環境に寄与する効果は大きいと分かった。次に、島根県邑南町地域みらい課係長の藤田浩司氏より、「脱炭素へのモデルチェンジ~脱炭素先行地域・地方公共団体実行計画の事例を元に考える」のテーマで講演がありました。
藤田氏は、脱炭素先行地域として取り上げられた邑南町の脱炭素取り組みの背景や具体的な施策について説明され、脱炭素は目的ではなく町が生き残るための手段などとお話しされました。藤田氏の講演要旨を記します。
・邑南町は人口9600人、高齢化率46%の中山間地域である。町が脱炭素を目指す背景としては、年間6-7億円の電力消費支払いが町外に流出し、地域経済が弱体化することを将来的なリスクと認識したことにある。
・邑南町が目指すコンセプトは「いつのまにか脱炭素を選べる町」としている。町が目指す脱炭素のまちづくりの柱は以下のとおりである。
①PPAモデルにより太陽光パネルと蓄電池を設置し、電力の自家消費を進め、また町内の電力消費を町内で循環させる仕組みを構築する(おおなんきらりエネルギーの設立)
②道の駅瑞穂再整備にあたり設備の脱炭素化(地中熱利用、EV充電設備の導入)
③有機農業・スマート農業の推進(ハウス暖房の電化、ソーラーシェアリングの推進など)
④「食のサプライチェーン」の脱炭素化
⑤豊かな森林資源を活用し、暮らしの豊かさを追求(薪ボイラの普及など)
⑥日中の需要を夜間電力や緊急時の電源供給に活用(EVのV2H、V2B利用など)
・ソーラーシェアリングの新しい応用形態として、垂直型ソーラーパネルを矢上高校の農場に設置し、農業施設や農機の電化と調和する電力供給の仕組みを検証中である。垂直型パネルの採用は冬季の日中でも雪による影響を少なくできるメリットがある。また、農機の電化(電動化)は、むしろ作業の軽減化や騒音の低減など、農業者や住民の生活環境改善に役立つものとして必然性があるが、脱炭素の視点からも進める意義がある。
・今後は企業版ふるさと納税や一般のふるさと納税のアイテムに脱炭素メニューを取り入れ、再エネ活用や地域社会への投資を促進していくことを考えている。このような持続可能なエネルギー政策を通じて地域経済の活性化や地域社会の発展を図っていく。第2部は、質疑応答と「地域脱炭素は幸せな社会づくりにつながるか?」をテーマにディスカッションが行われました。
パネリストは藤田氏と日本工業大学NIT-EMS本部長客員教授の雨宮隆氏、モデレーターは豊田氏でした。ディスカッションの一部を記します。
○司会(豊田氏):脱炭素の地域の影響がどのように促進するのか?地域の住民がどのように合意形成していくのか?その過程について教えて頂きたい。
・藤田氏:地域のキーパーソンのふところに飛び込んでいく。どんな得があるのかを明示し、体感することが大切。電気代が安くなると思う気持ちが合意形成につながる。
頻度は月に2回。学校に行く。母校でも講演会をしてきた。そして町内に限らず、言って回る。
市長(組長)さんが熱心であると行政も動くし、町の方々も理解する。市長(組長)さんが熱心でないと話が進まない。町長と話す機会があり、町長は熱心に言うから悪い話ではないと受けてくれた。熱心に圧倒的に努力すると温度は伝わる。
○司会:進捗状況のチェックについてはいかがでしょうか?
・藤田氏:多くの方々に晒すというか、触れてもらい、文句を言ってもらう。全員賛成のものは残らない。批判するものは盛り上がる。いろんな方が議論してくれる。また話がまとまると議員さんの中に飛び込んでいく。そこでご意見を頂いた内容は真摯に受けとめて、計画も見直していく。私たちは晒し者みたいな感じ。できていないものは隠さない。
反対の意見はある。すみませんと言う。ホームページは町の人は見ない。公式的に言うと伝わらない。自分から自白する。議員さんと立ち話をわざと廊下でします。公民館でわざと話して、話を町に流す。知らない人にも意見をもらう。
一年経ったら、どのくらい進捗したのか測って、記録することが大事。これをベースにその上で話が進む。
○司会:地域脱炭素先行地域は幸せな地域社会づくりにつながるのか?
・藤田氏:邑南町は、幸せな未来を思い描いている。人もいなければ、お金もない。この町に住み続けられるような、魅力的な公共サービスが充実すれば、サービスが付加価値となる。付加価値をつけていくことが大事かと思う。目にみえない電気で、新たなお金ができ、新たな投資につながる。投資をしよう。住もうという人を引っ張てくることもしている。
○司会:ふるさと納税は、どういう仕組み?
・藤田氏:ふるさと納税の返礼品で、町内に出来た電気を、町内の小売り電気事業社を通じて、3割が返礼品なので、3000円電気代を安くしている。その代わり100年の森電力という地域新電力があるのですが、そこ電力供給契約をして、ふるさと納税をする。自分が使っている電気代を年間3000円安くする。町内産の電気と紐づける。閉会挨拶は、農都会議運営委員の吉井哲三が行いました。
今回は、脱炭素先行地域の事例、再エネ導入によるCO2削減と地域経済への好影響並びに生じる問題について一層の理解が進み、深く考える大変有意義な機会になったと思います。
講師の皆さま並びにご出席の皆さま、誠にありがとうございました。
・再エネにおける太陽光応用については後段の藤田氏の講演に委ね、主に木質バイオマス応用に着目した内容を取り上げた。
・脱炭素に向けた研究プロジェクトでも明らかなように、地域のエネルギー支出の大部分が外部に流出している現状を改善するために、地域主体の脱炭素を進めることが重要である。例えば1000人規模の集落の単位で2.3億円位がエネルギー費用として地域外に支払われており、地域の中に残るお金は1%程度しか残っていない。
・再エネを推進するFIT制度で、木質バイオマスの導入など地元資源を活用したエネルギー生産が進み、環境への貢献だけでなく、関連産業の振興やCO2排出量の削減が期待されている。シナジー効果(良い相乗効果)として林業における木材の効果的な利用が、森林の健全化と脱炭素への貢献につながる。
・しかし、大規模な木質バイオマス施設が増加し、持続可能性と地域経済への影響が懸念されるようになっている状況があり、シナジー効果よりトレードオフの問題が大きなっているところも出始めてきている。
・大規模施設と小規模施設の違いによるシナジー効果やトレードオフの島根県内の具体例を示す。
・邑南町の事例を通じて、公民館区の連携強化(地区別戦略「ちくせん」)で地域住民の主体的なまちづくり活動が進められている。地域住民の意識と行動が重要である。
・交流推進や地域戦略の推進が、地域の持続可能な発展にどう寄与しているか? 道の駅を拠点にした地域網構築の事例分析を通じて、エネルギー利用や交通網の改善が地域経済と環境に寄与する効果は大きいと分かった。次に、島根県邑南町地域みらい課係長の藤田浩司氏より、「脱炭素へのモデルチェンジ~脱炭素先行地域・地方公共団体実行計画の事例を元に考える」のテーマで講演がありました。
藤田氏は、脱炭素先行地域として取り上げられた邑南町の脱炭素取り組みの背景や具体的な施策について説明され、脱炭素は目的ではなく町が生き残るための手段などとお話しされました。藤田氏の講演要旨を記します。
・邑南町は人口9600人、高齢化率46%の中山間地域である。町が脱炭素を目指す背景としては、年間6-7億円の電力消費支払いが町外に流出し、地域経済が弱体化することを将来的なリスクと認識したことにある。
・邑南町が目指すコンセプトは「いつのまにか脱炭素を選べる町」としている。町が目指す脱炭素のまちづくりの柱は以下のとおりである。
①PPAモデルにより太陽光パネルと蓄電池を設置し、電力の自家消費を進め、また町内の電力消費を町内で循環させる仕組みを構築する(おおなんきらりエネルギーの設立)
②道の駅瑞穂再整備にあたり設備の脱炭素化(地中熱利用、EV充電設備の導入)
③有機農業・スマート農業の推進(ハウス暖房の電化、ソーラーシェアリングの推進など)
④「食のサプライチェーン」の脱炭素化
⑤豊かな森林資源を活用し、暮らしの豊かさを追求(薪ボイラの普及など)
⑥日中の需要を夜間電力や緊急時の電源供給に活用(EVのV2H、V2B利用など)
・ソーラーシェアリングの新しい応用形態として、垂直型ソーラーパネルを矢上高校の農場に設置し、農業施設や農機の電化と調和する電力供給の仕組みを検証中である。垂直型パネルの採用は冬季の日中でも雪による影響を少なくできるメリットがある。また、農機の電化(電動化)は、むしろ作業の軽減化や騒音の低減など、農業者や住民の生活環境改善に役立つものとして必然性があるが、脱炭素の視点からも進める意義がある。
・今後は企業版ふるさと納税や一般のふるさと納税のアイテムに脱炭素メニューを取り入れ、再エネ活用や地域社会への投資を促進していくことを考えている。このような持続可能なエネルギー政策を通じて地域経済の活性化や地域社会の発展を図っていく。第2部は、質疑応答と「地域脱炭素は幸せな社会づくりにつながるか?」をテーマにディスカッションが行われました。
パネリストは藤田氏と日本工業大学NIT-EMS本部長客員教授の雨宮隆氏、モデレーターは豊田氏でした。ディスカッションの一部を記します。
○司会(豊田氏):脱炭素の地域の影響がどのように促進するのか?地域の住民がどのように合意形成していくのか?その過程について教えて頂きたい。
・藤田氏:地域のキーパーソンのふところに飛び込んでいく。どんな得があるのかを明示し、体感することが大切。電気代が安くなると思う気持ちが合意形成につながる。
頻度は月に2回。学校に行く。母校でも講演会をしてきた。そして町内に限らず、言って回る。
市長(組長)さんが熱心であると行政も動くし、町の方々も理解する。市長(組長)さんが熱心でないと話が進まない。町長と話す機会があり、町長は熱心に言うから悪い話ではないと受けてくれた。熱心に圧倒的に努力すると温度は伝わる。
○司会:進捗状況のチェックについてはいかがでしょうか?
・藤田氏:多くの方々に晒すというか、触れてもらい、文句を言ってもらう。全員賛成のものは残らない。批判するものは盛り上がる。いろんな方が議論してくれる。また話がまとまると議員さんの中に飛び込んでいく。そこでご意見を頂いた内容は真摯に受けとめて、計画も見直していく。私たちは晒し者みたいな感じ。できていないものは隠さない。
反対の意見はある。すみませんと言う。ホームページは町の人は見ない。公式的に言うと伝わらない。自分から自白する。議員さんと立ち話をわざと廊下でします。公民館でわざと話して、話を町に流す。知らない人にも意見をもらう。
一年経ったら、どのくらい進捗したのか測って、記録することが大事。これをベースにその上で話が進む。
○司会:地域脱炭素先行地域は幸せな地域社会づくりにつながるのか?
・藤田氏:邑南町は、幸せな未来を思い描いている。人もいなければ、お金もない。この町に住み続けられるような、魅力的な公共サービスが充実すれば、サービスが付加価値となる。付加価値をつけていくことが大事かと思う。目にみえない電気で、新たなお金ができ、新たな投資につながる。投資をしよう。住もうという人を引っ張てくることもしている。
○司会:ふるさと納税は、どういう仕組み?
・藤田氏:ふるさと納税の返礼品で、町内に出来た電気を、町内の小売り電気事業社を通じて、3割が返礼品なので、3000円電気代を安くしている。その代わり100年の森電力という地域新電力があるのですが、そこ電力供給契約をして、ふるさと納税をする。自分が使っている電気代を年間3000円安くする。町内産の電気と紐づける。閉会挨拶は、農都会議運営委員の吉井哲三が行いました。
今回は、脱炭素先行地域の事例、再エネ導入によるCO2削減と地域経済への好影響並びに生じる問題について一層の理解が進み、深く考える大変有意義な機会になったと思います。
講師の皆さま並びにご出席の皆さま、誠にありがとうございました。