→イベント案内(開催趣旨・プログラム)
今回は、「持続可能な森林資源を活用した脱炭素地域づくり」をテーマに開催した内子町シンポジウムから1年余が過ぎ、あらためて森林・バイオマスを生かして脱炭素化を図る自治体の事例などを元に、化石文明から再エネ文明への流れを考えようと企画したものです。200名近い方々がZoomウェビナーに参加及び参加申込されました。講師の方々は港区神明いきいきプラザの配信会場へお集まりいただき、講演と質疑、座談会・ディスカッションが行われました。
開会挨拶はNPO法人バイオマス産業社会ネットワーク理事、農都会議アドバイザーの竹林征雄氏に、司会進行は島根県立大学准教授の豊田知世氏にお願いしました。
第1部は、基調講演でした。
最初に、東京農工大学大学院生物システム応用科学府教授、博士(工学)の秋澤淳氏より、「地域の再エネによる熱の脱炭素化」のテーマで講演がありました。
秋澤氏の講演要旨を記します。
・熱の脱炭素化は必要不可欠であり、地域の再生可能エネルギーの利用が重要。
・熱の合理的な利用方法は、再生可能エネルギー資源を温度に応じて使い分けること。熱の質を考慮することが重要であり、エクセルギーの概念がその基礎となる。
・エクセルギーの損失を抑えてエネルギーの効率的な利用を促進するためには、熱の多段階利用やコージェネレーションシステム(熱電併給)が有効である。
・これまでの大型火力など集中型のエネルギーシステムでは結局エネルギーの損失が大きい。これからは地域の再エネを使った小型コージェネでの熱電利用(分散型エネルギーシステム)を進めることが肝要である。
・太陽熱も地域のエネルギー源として多様な使い方が可能である。東京農工大キャンパスでは、太陽熱を使った冷水製造・冷房システムを運用している。デンマークやカナダでも太陽熱を使った地域熱供給が実用化している。
・地域資源のバイオマスや太陽光、太陽熱など、今ある再エネ技術を活用することで、地域の2050年カーボンニュートラルが達成できるという試算もされている。
・地域の脱炭素化は地域経済や産業の競争力を向上させるチャンスであり、持続可能な地域づくりにも貢献する。再生可能エネルギーがあるところに産業が蓄積するとも言える。地域が生き残るには、再エネを最大限に活用した脱炭素化の推進が必須である。
続いて、早稲田大学理工学術院教授、博士(工学)の高口洋人氏より、「建築物の脱炭素化と木質バイオマスの活用」のテーマで講演がありました。
高口氏の講演要旨を記します。
・日本の人口動態と将来予測によれば、2100年の人口減少(4800万人)で、一人当たりの木材需要が現状ベース(0.6m3/年)のままでは、林業が産業として維持できる再造林面積10万ha/年では供給過剰でバランスしない。木材需要を大きく増やすためには、木造建築の増加と共に木材のエネルギー利用も不可欠である。
・林業をエネルギー事業として活用することで脱炭素化に寄与できる可能性がある。木材資源の地域経済への活用が地域の持続可能な発展につながる。
・バイオマスCHPを利用したエネルギー供給システムの構築について、平時だけでなく、災害時のエネルギー供給を担う地域の防災対策としての有用性が高い。
・レジリエンス強化や脱炭素の取り組みには、多額の資金が投入されており、多面的価値を統合して商品化することが望まれるが、課題は成功事例の蓄積と共有、および人材育成である。
第2部は、事例紹介でした。
まず、株式会社FOREST CYCLE 代表取締役の込山正一郎氏より、「木質バイオマスがつなぐ地域の山」のテーマで講演がありました。
込山氏の講演要旨を記します。
・富士総業株式会社は木質ペレット製造とバイオマス発電を手がけ、込山氏が社長の子会社のFOREST CYCLEはペレット・チップの製造を行っている。
・静岡県小山町は、豊富な森林資源がありながらも人工林の整備が追いついておらず、防災の観点からも山林整備が重要視されていた。そこで林業の効率化を目指した取り組みが行われ、静東森林経営者協同組合など林業関係者や地域住民の協力により、町の木材循環が段階的に進展し、地域内のバイオマス利用が促進されている。
・FOREST CYCLE社のチップ・ペレット工場の稼働が核となって、発電のみならず熱の利用も拡大している。
・地域共有の山林や効率化林業への理解、そして静東森林経営協同組合の役割などが、地域の木材循環の成功に貢献している。今後の課題として、所有者の関与拡大やバイオマス利用の拡大が挙げられる。
・木質バイオマスの地域循環は、地域の活性化と環境への貢献につながり、持続可能な社会を築く上で重要であり、地域の各関係者が協力し、適切な解決策を模索することが求められる。
二番目に、平取(びらとり)町まちづくり課主幹の船越文弥氏より、「レジリエンスとゼロカーボン推進 ~木質バイオマスセンターの取組~」のテーマで講演がありました。
船越氏の講演要旨を記します。
・平取町は北海道日高地方に位置し、自然とアイヌ文化が豊かな町。農業が中心の町であり、トマトの生産量は北海道1位。平成20年からバイオマス産業都市構想を策定し、太陽光発電やバイオマス化などの取組みを行ってきた。
・令和4年にはゼロカーボンシティを宣言し、木質チップを燃料とした施設への電気・熱の供給を開始した。自立型木質バイオマスセンターは災害時のエネルギー確保と地域経済活性化を目指している。
・再エネ導入の高いポテンシャルがあること、森林吸収量が見込める豊かな森林があることから、木質バイオマスを中心に国の目標より野心的な2045年ゼロカーボン達成の目標を置いている。
・課題として、Volter機のメンテナンス・交換部品コストが高額なことや、購入チップ燃料コストが3300円/m3と初期計画より値上がりしている(さらに高騰の懸念)などでランニングコストが大きな負担となっていること、また、入手チップの品質バラツキが起因でガス化発電が不安定なケースがある等がある。
三番目に、群馬県上野村振興課係長の佐藤伸氏より、「森を活かす 千人の村の挑戦」のテーマで講演がありました。
佐藤氏の講演要旨を記します。
・群馬県の上野村は、人口1041人であるが、森林資源を活かした持続可能な社会を目指し、森林整備計画や木質バイオマス利用などの取り組みを通じて、林業の活性化や再生可能エネルギーの活用を推進している。
・間伐材利用をA/B材およびペレット化に広げ、森林利用者へ立米当たりA材3600円、B材2400円を還元し、年間6000m3以上を搬出している。ペレット生産量は1200トン。
・ペレット工場はH23年とR1年に設置。これまでにペレットボイラー10基、ペレットストーブ80台、バイオマス発電180kWを設置した。
・2050年に向けた、「Ueno 5つのゼロ宣言」を掲げている。宣言内容は、自然災害死者、温室効果ガス排出、停電、プラスチックごみ、食品ロスをゼロにする取り組みを展開することである。また、2030年までに民生部門の電力消費に伴うCO2排出を実質ゼロにする目標を掲げて脱炭素先行地域の指定を受け、太陽光と蓄電池の設置を含め、EV、省エネ、LED化などを村民向け事業として支援している。
第3部は、「木質バイオマスエネルギーを核とした経済循環とまちづくり」をテーマに、座談会・ディスカッションと質疑応答が行われました。パネリストは、第1部・2部の講師の各氏、モデレーターは、島根県立大学准教授RISTEX研究プロジェクト代表の豊田知世氏でした。
最初に、講演者間で熱心なディスカッションが繰り広げられ、とくに、地域でバイオマスエネルギー利用を具体化する際に重要となる、様々なステークホルダー間の協力をどう取り付けるかが議論となりました。
ディスカッションの一部を記します。
・材の搬出からバイオマス利用まで小規模でも一回実践して見せると理解が得られやすい。そのためには、どこかの事業体がリーダーシップを発揮してトライして見せることがカギとなる。経済性の不安を軽減するには、行政主導が重要である。上野村の場合、村長の強いリーダーシップで関係者間の調整が順調に進んだということがある。
・バイオマスコージェネでの熱の利用を合理的に進めるには、基本的には近場でよい需要先が具体化できるのが良い。あらかじめ街づくりの中で計画されているのが望ましい。
・地域内では、EVを使って家庭のエネルギー収支をとれるとよいという意見もあるが、熱に関しては太陽熱温水器をぜひ利用してほしいところ。せっかく導入したコージェネの熱が使い切れていないという平取町からの報告もあった。生チップの乾燥に回すことでうまくいっている例もある。
・バイオマスコージェネを導入したものの、稼働率が想定より低かったり、チップ価格が計画より高かったりすると、運用コストが経済性を圧迫して地域財政上足かせになるという課題は共通である。
閉会挨拶は、農都会議代表理事の杉浦英世が行いました。
今回は、森林・バイオマスを生かして脱炭素のまちづくりを進める方法について基調講演と事例紹介により理解を深め、現在の化石文明から近い将来の再エネ文明への流れを身近に考える、たいへん有意義な機会になったと思います。
講師の皆さま並びにウェビナーへご参加の皆さま、誠にありがとうございました。