勉強会

「農林業のJ-クレジット」勉強会(2024年2月27日)の報告

NPO法人農都会議は、2024年2月27日(火)夕、「農林業のJ-クレジット制度 ~地域の脱炭素化を進めるために制度の基本と事例を学び、課題について考える」勉強会をオンラインで開催しました。
→イベント案内(開催趣旨・プログラム)

2月27日勉強会

今回の勉強会は、農林分野における二酸化炭素排出削減対策、吸収源対策を推進する「J-クレジット」制度の基本と事例を学び、課題を考えようと企画したものです。100名近い参加者が集まり、講演と事例紹介、質疑・意見交換が行われました。
開会にあたり、農都会議運営委員の鈴木純一がご挨拶しました。

第1部は最初に、農林水産省大臣官房みどりの食料システム戦略グループ課長補佐の宮田英明氏より、「農林水産分野におけるカーボン・クレジットの拡大に向けて」のテーマで講演がありました。
宮田氏は、地球温暖化の状況とみどりの食料システム戦略、J-クレジット制度等についてお話しされました。

2月27日勉強会

宮田氏の講演要旨を記します。
・日本の温室効果ガス排出量は約11億7000万トンCO2で、全体の約4%(4949万トンCO2)が農林水産分野からの排出。農林水産分野のCO2排出の主な原因は燃料の燃焼によるもの(36%)とメタンの発生(45%)。メタンの発生源は主に水田(稲作)と家畜(特に牛のゲップ)である。
・政府のみどりの食料システム戦略では、持続可能な食料システムの構築を目指し、2050年までに14の大きな目標を掲げている。農林水産業のCO2排出の20%削減や、化学農薬の使用量の50%軽減、有機農業面積の25%拡大などが含まれている。
・J-クレジット制度は省エネ設備や再生可能エネルギー導入、森林管理による温室効果ガスの排出削減や吸収をクレジットとして国が認証する制度。クレジットの認証は何もしなかった場合の排出量(ベースライン)とプロジェクト実施後の差で評価される。
・J-クレジットに参加するメリットは、省エネや再エネ導入によるランニングコスト削減、クレジットの売却による収入、環境企業として温暖化対策でのPR効果、製品・サービスの差別化、ブランド化が挙げられる。
・J-クレジットプロジェクトの方法論は温室効果ガスの削減技術や算定方法を定めたもので、全体で70設けられている。農業分野では省エネや再エネの導入、家畜分野ではメタン削減など、各分野に特有の方法論が存在する。
・プロジェクトの登録は通常型とプログラム型の2つがあり、通常型は大規模な法人が単独で登録する手続きで、プログラム型は個々の農家などが参加しやすくした仕組み。プログラム型では運営管理者が個々の会員をまとめ、プロジェクトの代行手続きやクレジットの管理・売買を行うことで、個々の農家は手続きの負担が軽減される。
・現状、農業分野では省エネ・再エネが10件、家畜分野が2件、バイオ炭の農地施用4件、中干し期間の延長が9件登録されていて、合計25億円相当になる。
・YouTubeチャンネルにはクレジット発行農家の事例を紹介した動画があり、ぜひ参照頂きたい。

続いて、林野庁森林整備部森林利用課課長補佐の飯田俊平氏より、「森林由来J-クレジットの創出・活用の促進について」のテーマで講演がありました。
飯田氏は、制度の概要、森林クレジットの創出・取引の動向、森林クレジットの手続き等についてお話しされました。

2月27日勉強会

飯田氏の講演要旨を記します。
・森林分野のJ-クレジットは、適切な森林管理と再エネ導入が事例の中心。
・森林クレジットの方法論にはFO 001(森林系活動)、FO 002(植林活動)、FO 003(伐採後の再造林)があり、FO 002はまだ使用例がない。クレジット関連の手続きは複雑で、登録・認証・実績取得までの流れがある。
・森林経営活動に関するものは全体の割合は3.7%であるが、2022年から急激に認証量が伸びており、2023年度の登録は100件以上になる見込み。
・登録されたプロジェクトの所有者の内訳は、半分以上が都道府県や市町村、林業組合などの公的機関で、企業も増加している。
・森林クレジットはストーリー性に注目され、多くが相対取引で売買されているが、東京証券取引所のカーボンクレジット市場では売上の実績はまだ確認されておらず、価格の高さや由来の不透明性が課題となっている。
・クレジットの購入利用では、企業活動でのCO2排出のオフセットに利用する事例が多い。マツダは広島県の森林クレジットを使用して、広島市民球場のナイターゲームのCO2排出をオフセットに用いている。JALは乗客のチケットにオフセットを呼びかけたり、自動車保険会社も自動車保険契約者に対してオフセットのオプションを提供するなど、消費者を巻き込んだ取り組みをおこなっている。
・森林組合や企業がプラットフォームを提供し、地方銀行を介した取引や企業の自主目標のオフセットにJ-クレジットが活用されている事例などがある。
・林野庁が発行したハンドブックでは、J-クレジット取引における手続きやモニタリングなどが詳細にまとめられており、ウェブサイトから入手可能。参照願いたい。

第2部事例紹介では、はじめに茨城県神栖市の農業、田川勇治氏より、「J-クレジットに期待すること」のテーマで講演がありました。
田川氏は、脱炭素に取り組むピーマン農家の試行と経験をお話しされました。

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田川氏の講演要旨です。
・ピーマン作りとともに脱炭素の活動に取り組み、20年間の様々な試行錯誤の末、一昨年までに茨城県の平均的な農家の燃料使用量に対し3分の1を実現した。今シーズンは、更に薪ボイラーの導入により12アールで約500リットルと約97%の化石燃料削減を実現した。
・木質ペレット温水ボイラーを採用し、発生したCO2と温水の熱利用の実現化や、ピーマン残渣から炭を作ったり、水封マルチや水槽を用いたハウスの改善と保温、夜間蓄熱による温水利用などの工夫が功を奏した。
・こういった化石燃料使用に取り組む農家にはJ-クレジットが組み込まれることを期待したい。

次に、株式会社つくば林業代表取締役の松浦晃氏より、「森林吸収系J-クレジット制度の取組」のテーマで講演がありました。
松浦氏は、林業のDX化に向けた連携協定、森林の未来への取組事例をお話しされました。

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松浦氏の講演要旨です。
・神奈川県相模原市でのICT林業(森林DX)をテーマにした森林クレジット取得という、J-クレジット制度への取組を進めている。J-クレジットは取得が難しいという一般認識があるが、取り組み方によっては難しくない。
・3700haのうち、まずプロトタイプの区域で、市の森林政策課がプロジェクトを宣言して活動が始動し、現在は妥当性確認が終了し、プロジェクトの登録申請が完了したところ。今後は5月以降にモニタリングが始まり、約1年半かかる見込み。
・専業者、組合、金融機関、企業が責任をもって連携することにより、プロジェクトの進行が円滑に進んでいる。
・未来展望として、「100年後の希望を作る」目的のもと、プロジェクトを進めている。

第3部のテーマは「脱炭素・J-クレジット制度を、自分事として実現することを考える」でした。最初に講師の皆様の間で意見交換して頂き、つづいて一般参加者からの質問・意見に講師の皆様からお答えがありました。
モデレーターは、日本工業大学NIT-EMS本部長 客員教授の雨宮隆氏でした。

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ディスカッションの概要を記します。
(1) 今後もJ-クレジットの方法論は生まれていくか?
・森林関連のプロジェクトにおいて、森林管理作業にはいくつかのパターンがあるものの、新しい方法論が生まれる可能性は低いとの見解。
・農業分野では現在6つの方法論があり、畜産分野においてはメタンの発生量削減や農地・水田由来のメタン発生を削減する技術の方法論化が進行中。さらに新しい方法論が提案される余地がある。
・方法論の拡大には時間がかかるが、長期的に見て拡大していく方針。

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(2) クレジットを増やしていくための課題と方策、自治体との連携などは?
・現状はコストの高さが、森林や農業分野のクレジット取引を難しくしている。
・クレジット取引においては、ストーリー性や背景情報を付加し、地域内での循環を促進していく取り組みが進んでいる。地域貢献の観点から、例えば川上の森林で創出するクレジットを川下の企業や街が排出したCO2のオフセットに利用するなど、地域ごとの連携があり得る。
・例えば、森林整備の促進が気候変動対策や生物多様性に寄与することをクレジットの付加価値として謳い、メリットと考える企業との連携やイベント参加を促進するなども考えられる。
・自治体の視点では、J-クレジットを使ってCO2排出量を減少させる取り組みが進む中、企業やJA、農業法人とのコンソーシアムが形成されつつあり、クレジットの発行と償却が進む見込み。
・水田の中干し期間の延長の方法論によるクレジット創出は、大手企業やメーカー、スタートアップ企業が事業者として活動し、自治体やJAが事業者になる例もある。
・森林系のクレジット取引において、まだまだ売れないとの課題があるが、喜多方市と中野区のクレジット創出―引き取りの連携例など、地域と都会のつながりにもおおきな可能性がある。

農都会議運営委員の會田教子が司会進行を務め、閉会挨拶は代表理事の杉浦英世が行いました。

2月27日勉強会

今回も盛況な勉強会となり、丁寧な講演・説明と熱心なディスカッションが行われました。手続きが大変と思われているJ-クレジット制度について理解が進み、課題をいろいろな視点で考える有意義な場になったと思います。
講師の皆さま並びにご参加の皆さま、誠にありがとうございました。

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